長島 孝行 (ながしま たかゆき)
東京農業大学農学部
昆虫機能開発研究室
教授 農学博士
(農学科作物保護分野主任、電子顕微鏡室長)
ニューシルクロードプロジェクト代表
1955年生まれ。
日本野蚕学会常任評議委員、
日本千年持続学会理事等を務める。
専門:インセクトテクノロジー、
自然に学ぶものづくり、バイオミメティクス、
エネルギー環境問題
長島 孝行のブログ
http://profile.ameba.jp/insectech/
シルク(絹)といえばカイコが作る「光沢のある美しい繊維」、そう思っていた読者がほとんどだったと思う。しかしこの15年間におこなわれた新しい発想での日本の研究により、シルクの考え方が一変した。こうした考えに基づく研究から、全く新しい「ものづくり」を、そして日本の「衣」の自給率を1%以上にしよう、というニューシルクロードプロジェクトも立ち上がっている。
この理由の一つは、「シルクは蛋白質である」という点に注目した研究である。シルク蛋白質の機能性は、アレルギーが起きない「生体親和性」、カビなどを殺しも増やしもしない「静菌性」、更には「紫外線遮蔽性」、「吸脂性」などの機能性が次々に明らかにされた。またその研究のプロセスでシルクを液体からプラスチック化までの「加工技術」も簡単にできるようになった。また、「無味無臭」という便利な性質も存在する。
このことから繊維になるものは繊維として使い、残ったくずマユ、くず糸などはサッと水に溶ける蛋白質のパフにして、化粧品に(UVカットや生体親和性を利用)、更には健康食品(吸脂性、無味無臭)と次々に日本独自の高付加価値製品が販売されている。ただし、この本中にも出てくるシルクをアミノ酸にまで分解した場合、当然この機能性は発揮されない。やはり、シルクは蛋白質であることが重要である。マユは外敵から身を守るために生き物が一生懸命作った最高傑作であることに改めて驚かされる。
もう一つは、「シルク=カイコではない」という点に注目した研究である。色んな生き物がシルクを作っている。その数は10万種を超える。甲虫のなかま、バッタのなかま、ダニのなかまなど実に様々な生き物がシルクを作っている。つまりシルクは10万種以上あるということである。それぞれナノレベルで構造も違うし、機能性も異なるだろう。その一例が、ヤママユガのなかまのシルクで、特別なナノ構造が紫外線のA波(皮膚の老化や日焼け)まで強くプロテクトしてくれる。そんな天然素材は他には見当たらない。滑らず、光らず、軽い。しかもアンモニア吸収能が高いなど、カイコのシルクを超えた機能を持っている。この特徴をいかした製品も既に販売されている。
シルクは「古くて、実は最も新しい資源」である。そんな一面もこの本で十分感じていただけたのではないだろうか。