「絹大好き」で始まった取材を通して、様々な絹に出会いました。
絹糸は、王族などの特権階級が着飾り、身体を護った時代を超えて、市井の民の衣料として使われるようになりました。ナイロンが発明されるまでは、美しいストッキングの材料として輸出され、日本に莫大な利益をもたらしてきました。その後迎えた国内の和服ブーム以後も、絹は美しく着飾る織物というイメージでした。
私は、絹の持つ「人間の健康を支える」という重要な特性を知り、私の回りのアトピーや喘息、ガン闘病など、外気温や身辺の雑菌、呼吸によって体調悪化を招きやすい人々の冬支度に思いを馳せています。
「いのちのかんさつ 4 カイコ」の執筆中に出会った「キビソ」に惹かれ・・・、精練した糸を桐生から送っていただきました。
私が作りたかったのは、制菌・抗臭のマスクイン。マスクを1日中していると、外気からの菌の侵入は防げても、自分が持っている菌や、すでにのどに入り込んだ菌は、マスクで閉ざされて増殖します。長時間経てば無臭ではあり得ません。
この写真は、首回りの保護、保温・保湿のためのネックウォーマーと、マスクイン。鼻腔、咽頭、気管を保護する友人のための試作品です。
糸/絹遊塾 工房風花 http://www.kiryu-renga.jp/kazahana/
半世紀近く前に腎障害になって、何を着ても肌寒かったときに首に襟巻きをしたら、重ね着して雪だるまのようにするよりも暖かくて・・・、でもマフラーもスカーフも室内では邪魔くさくて、タートルネックのエリだけを作ればいいと、腹巻きの細めの様な物を編んで重宝していました。
年齢を重ねた今は、ウールはチクチクして苦手です。静電気の起きる化学繊維も全くだめ・・・その点絹は、全くチクチクしないので就寝時にも使えます。
頭が、ギュッと通るくらいの太さで30cmくらいの長さに編めば、下の写真の様に鼻の上まで覆うことができます。
のどを乾かしたくないときにも制菌、抗臭でありがたい内粘膜の保護素材になります。
体調でマスクをしたくないときもある。眠るときに口を開けてしまってのどを痛めることもある。絹は24時間身体を護ってくれます。友達に編みながら、回りののどの弱い人たちにも編もうかなあと針を運んでいます。
こういう優しい肌触りの製品がこれまで作られてこなかったのが不思議です。絹は高価でしょうか? 海外有名ブランドのマフラーよりも安価に作れるはずです。このような優しい肌触りの編み物が作れる手編み糸も売られてこなかった・・・
もう少し、絹が身を護ることを考えても良い時代だと思います。しかし今のままでは、国産の絹を健康衣料に使えるほどの量のマユは無くなります。まだある今、こんな物が欲しいよーと・・・ この冬が超えられないと言われた友人の身体を護るため、余命2か月と宣言されて生活を見直し、春になれば6年も生きたことになる私のため、一つ一つ編んでここへ発信します。成人後の人生のほとんどを病気と共生し、仕事をしてきた私の、ちょっとした発想が絹繊維の健康利活用について考える糸口になればいいなあと思います。
肌着にシャツ1枚の気楽な格好で、衣服に行動を阻まれないで暖かく過ごす・・・ 長時間パソコン前にいる私には必需品。
病院のベッドで休むときにも、病院は暖かいようでも案外寒い。ベッドの上だけにしがみついていたら運動不足になる・・・ ちょっと売店までとか・・・ 歩き回る様にするときに寝たり起きたりしやすいように、パジャマの下に暖かな肌着・・・
石油製品の肌着は、ずっと病と戦ってきた私には肌に掻痒感を持たらし、綿とウールの肌着を重ね着をした頃もあったけど、近年は肌が弱くなって、ウールは綿の肌着越しにチクチクし、外気温や体温の急変では汗ばんで蒸れるのが厄介です。
しかし薄手の絹の肌着は頼りなく、それに案外脆い。このように編んだら、しっかり厚手で2~3年は着られる丈夫な肌着になるかなあ? 試してみましょう。
私の腎障害は先天異常で起きている病ですが、近年の大腸ガンは確かに生活習慣病です。しかしいずれも、体温の急変を生活環境の見なおしで緩和してきました。劇症時以外は人工的に加温や冷却をせず、体温調整がしやすい衣類を探して実験しながら命を延ばしてきた私にとって、絹はとてもありがたい繊維です。
マスクインに抗菌を望むなら野蚕糸。写真はインドネシアのクリキュラとアタカスの糸。
かぎ針でざっくり編むと、就寝用などのマスクインにも寝苦しさが無く良さそうです。
始めて編んだクリキュラ&アタカスは、編むと心地良い手ざわりと糸運びで、いつまでも編んでいたい気分になります。
ネックウォーマーやキャップを編みたいなあと思いますが、織物に美しい極端な太い細いは、棒針には向かないので、家蚕糸か真綿と引き揃えたほうが編みやすいと思います。
糸/㈱ジョグジャカルタロイヤルシルク http://jog-ja.center-f.jp/gaiyo.php
撚っていない絹糸の太糸、きびそや真綿は、手編みをするとへたりやすくなります。へたらないほどきっちり編むと固くて厚地になります。
この帽子は、紅茶で染めた真綿を、つむがず引くだけで(撚らずにそのまま細く引き出す)糸にして、アタカスと引き揃えて(毛糸の極太くらいの太さ)編んだものです。
セーターなどにすると恐らく真綿が毛羽立ってしまいますが、帽子なら擦れないのでOKでしょう。ふっくらふんわりかぶれます。羊毛の太糸は秋口には暑いけれど、絹は除湿するので暑苦しくなく、ふんわり保温しますから秋から春まで使えて便利でしょう。
手で編む糸が好きなので、織りの糸に興味がありますが、実際に編むと羊毛など、伸縮しても戻る手編みの糸との違いを感じます。
織りと違って編むということは、寸法をどこで抑えるかが問題になり、ゲージをとっても、へたれば伸びてしまうわけで、今回編んでみてゲージの抑え方が難しいと思いました。
へたった限界でゲージを取って編んだゴム編などは、間延びをしていますが味わい深く、毛糸のきちっとした編み目を思わなければこれも良しだと思いました。もっともショルダーバックの紐などでこすれると悲惨になると思いますから、肌着、帽子、ネックウォーマーなど向きです。肌着として重なり合う場所などは、フェルト化するでしょうか? 今後のチェックが楽しみです。
絹は織りの実績が長く、身近な衣類として太糸の手編み糸などにはされてこなかったので、これからの課題です。
ここでは、真綿との引き揃えですが、種によって繊維の延びが違うので、それぞれ編んで1年くらいは着用し、洗濯しながらゲージをとることが必要で、長く愛用するためにはいろいろ編んでみて改善することだと思います。